野菜生活

新鮮お野菜王国のマーチ

空軍楽団、マザー・グース、検閲

グレン・ミラーは100年ほど前に人気を博したトロンボーン奏者です。

『ムーンライト・セレナーデ』などを作曲して名声を得たのち、米国陸軍に入隊して第二次大戦に従軍しました。終戦の直前、乗っていた航空機とともに英仏海峡で消息を絶っています。

ところで、一介の音楽家である彼が軍隊で何をしていたかというと、主にマーチングバンド*1を率いていたそうです。ラジオ放送に参加したり、各地で演奏活動を行ったりと、人気音楽家だった彼の活動は宣伝や士気高揚に大いに貢献したといいます。

具体的にはこんな曲を作っていました。

youtu.be

That little seed planted itself inside Jerry Gray’s fertile imagination, and the good-sized came up with a good arrangement song, now by the crew chiefs as the all soldier orchestra offers Oranges and Lemons.

ジェリー・グレイの豊かな想像力に植えられた種子が、成長して素晴らしいアレンジの着想をもたらしました。楽団員は全員兵士のオーケストラが贈る『オレンジとレモン』です!

 

Oranges and lemons,
オレンジあるよ レモンもね
Say the bells of St.Clement’s.
鐘響かせる セント・クレメント

You owe me a penny,
お前には 貸しがあるんだ 1ペニー
Say the bells of Kilkenny.
鐘響かせる キルケニー

When will you pay me?
いつになったら 払ってくれる?
Say the bells of Old Bailey.
鐘響かせる オールド・ベイリー

When I grow rich,
大金持ちに なったらね
Say the bells of Shoreditch.
鐘響かせる ショアディッチ

When will that be?
一体いつに なるんだい?
Say the bells of Stepney.
鐘響かせる ステプニー

(I'm sure) I do not know,
知るわけがないよ
Says the great bell of Bow.
大鐘響かせる ボウ

Here comes a candle to light you to bed.
ろうそくの光で寝台へと導かれ
Here comes an angel you watch overhead.
天使が頭上に現れる

(以下繰り返し)

(リスニングで書き起こした歌詞なので、あまり正確ではないかも)

『オレンジとレモン』は広く親しまれたマザー・グースのひとつです。

ja.wikipedia.org

ところで、赤字の部分が原曲と少し違います(緑が原曲の歌詞)。

You owe me a penny,
お前には 貸しがあるんだ 1ペニー
Say the bells of Kilkenny.
鐘響かせる キルケニー

You owe me five farthings,
お前には 貸しがあるんだ 5ファージング
Say the bells of St. Martin's.
鐘響かせる セント・マーティン

ファージングは1961年に廃止された英国の通貨単位で、1ペニーの4分の1です。これだけなら単なる現代的な改変に過ぎませんが、少し気になるのはその後です。

「キルケニー」はアイルランドの地名です。『オレンジとレモン』の本来の歌詞ではここに教会の愛称が入るので、「キルケニー」は当地にある聖カニス大聖堂を指すのかもしれません。

ただし、原曲の『オレンジとレモン』で歌われているのは全てロンドンの教会なので、このような改変に至った理由はやや不可解といえます。まあ、これは書き手の勘違いかもしれず、実際にはロンドンのどこかの教会を指している可能性もあるので、詳しい人がいたらどこなのか教えてください。

Here comes an angel you watch overhead.
天使が頭上に現れる

Here comes a chopper to chop off your head.
処刑人がお前の首を落とすぞ

この改変も戦時中ならではのものでしょうか。

以前ジョージ・オーウェルについての記事でもグレン・ミラーの曲に触れましたが、当時の様子を知る手段としても音楽はなかなか有用であると思います。

831.hateblo.jp

 

*1:当時のArmy Air Force Band、後の合衆国空軍楽団の前身。